2019.12.25 / interview

地元の農園風景を守りたい!兼業農家さんの誓い

生まれ育った枚方の街からどんどん田んぼが減っていく。思い出の地が住宅に変わっていく様をみて「将来は僕が土地を買い戻して、昔の農園風景を復活させる」そう決心したという15歳の篠原弘徳さん。今は会社員をしながら兼業農家として田んぼで米を育て、また体験農園「くずはシティファーム」で農業の楽しさを広める活動をしています。そんな篠原弘徳さんに、今の時代に合った農業との向き合い方について聞きました。

 

くずはシティファーム 篠原弘徳さん × ライター 西倫世さん

西ちゃん
篠原さんは、いつ頃から農業に携わっていたんですか?
篠原さん
幼稚園児の頃から、親せきの田んぼの農作業を手伝っていました。大勢で集まって農作業をして、昼は外でお弁当を食べて、ピクニックみたいで楽しかったですね。

 

西ちゃん
そんな小さい頃から農業の経験があったんですね。その頃から将来は農家を目指していたんですか?

篠原さん
いいえ。年を重ねるごとに一旦興味は遠のいて中学、高校は部活に打ち込んでいました。ちょうどその頃デジタルカメラをもらったので、なんとなく減っていく田畑を撮っておこうと撮り始めると、どんどん愛着がわいてきて。いつか起業してお金持ちになって、土地を買い戻して僕が幼少期から見てた風景を復活させようと思うようになりました。

西ちゃん
青春ですね。

篠原さん

高校生のときは吹奏楽部でトランペットを担当していたのですが、ちょうど練習場所から田んぼが見えたんです。風が吹くと稲穂がなびく風景がとてもきれいだったのに、そこにも大きな病院が建ってしまって……。

西ちゃん
じゃあ大学は農学部に進学したんですか?
篠原さん
理系の勉強が好きだったので大学で農業工学を学び、除草ロボットの研究をはじめました。この頃から自分のやっていることと農業が結びつきはじめました。

西ちゃん
その後、どうやって兼業農家になるにいたったんですか?
篠原さん
大学卒業後は大学院に進学し、いちごの自動収穫ロボットの研究をしました。将来は農業ロボットをつくって起業したいと思ったのですが、いきなりは無理なので、まず社会勉強をするため就職したんです。会社員をしながらマイファームアカデミーという有機農業のスクールに通いました。

西ちゃん
でも今は農家をするだけでなく、体験農園もはじめたんですよね?
篠原さん
はい。農業ロボットをつくりたいと思っていたけど、僕の原点は地元の農園風景を守ることだった。その結果、僕にできることは祖父から譲りうけた田畑で貸し農園をして、多くの人に農業の楽しさを知ってもらうことだと思ったんです。

西ちゃん
なるほど。体験農園を利用されているのはどんな方ですか?
篠原さん
最寄りの樟葉駅から離れているので、今は近所のお子さんが親御さんと一緒に来ています。特に稲刈り体験はお子さんが多いですね。

西ちゃん
子どもの反応はどうですか?
篠原さん
とてもいいです。収穫して揉んですぐのお米、つまり玄米をそのまま食べた子がいたんです。それで僕も食べてみたら意外とやわらかくて。田んぼで米を育てていた僕でも知らなかったことを子どもに教えてもらっています。

西ちゃん
体験農園を運営しながら、お米も育てているんですよね。
篠原さん
はい。約1000平米の農地のうち300平米で僕がお米を栽培し、残り700平米を体験農園にあてています。

西ちゃん
兼業農家としての苦労はありますか?
篠原さん
時間が足りないってことに尽きますね。専業農家なら昼間にやる作業を平日の夜にしないといけないんです。草刈りをするにも暗いからヘッドライトをつけてやります。近所迷惑になってはいけないので草刈り機は静かな電動のものに変えるなど気は遣っています。

西ちゃん
じゃあお休みがないのでは?

篠原さん
会社員として働きながら、残りの時間すべてを農作業にあてると体がバテてしまう。週末に農作業を頑張り過ぎて月曜からの仕事に支障が出てはいけないので農作業は平日夜の時間があるときと土曜と決めて日曜は休むようにしています。

西ちゃん
では兼業農家ならではのメリットはありますか?

篠原さん
農業以外に収入があるというのはもちろん、専業農家と兼業農家では人のネットワークが違うところですかね。いろんなつながりでビジネスの話ができます。

西ちゃん
兼業農家の場合、農作物を販売することはできるんですか?
篠原さん
出荷組合に入れてもらっているので、僕は枚方市駅の駅前にある「枚方T-SITE」内にある八百屋さんでお米を売らせてもらってます。兼業農家でもJA(農業協同組合)に登録して販売したり、民間の直売所に農薬履歴など必要な書類を提出して契約できれば、JAを通さず売ることもできるので、いろんな方法があると思います。

西ちゃん
学生が農業をはじめようと思ったとき、まず何をすればいいと思いますか?
篠原さん
イチゴ狩りも農業体験のひとつだし、農場が牧場でのアルバイト・ボラバイトなどでも農業体験はできると思います。僕がしている貸し農園を見つけるのもいいし、今は自治体が農地を貸し出している場合もありますよ。

篠原さん
でも農業って産業としてみると仕入れ、配送、販売、飲食などいろんな切り口がある。野菜を育てる以外でも、いろんな関り方があるので、自分には何が向いているか考えてみてもいいですね。

西ちゃん
篠原さんは学生のとき、農業に関わるため何かしましたか?
篠原さん

農家さんに電話して「草刈りロボットの研究をしている大学生です。農園を見せてもらえないでしょうか」と言って、いろんな農園を見せてもらえました。これは本当に学生の特権。熱意が伝われば、見学くらいはさせてもらえると思いますよ。

西ちゃん
最後に、今後の目標について教えてください!
篠原さん
将来的には農家としての比率を上げていきたい。僕のそもそもの目標は、地元の農園風景を守ることなので、自分がたくさん農作物を育てるというのではなく、体験農園を広めて、農業に興味を持ってくれる人を増やしていきたいですね。

西ちゃん
素敵ですね。応援しています。

 

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くずはシティファームホームページ

【プロフィール】

~街中で自然とふれあい~ くずはシティファーム 篠原弘徳さん

1985年生まれ。大阪府枚方市出身。小さい頃から親戚の農家の農作業を手伝い、大学では農業工学について学び、その後大学院に進学し農業ロボットを研究。会社員として働きながら、有機農業を勉強するためマイファームアカデミー(週末農業ビジネススクール・アグリイノベーション大学校の前身)へ。2014年京阪樟葉駅から車で10分程度の場所に体験農園「くずはシティファーム」を立ち上げた。

この記事を書いた人

西  倫世
フリーランスのライター。学生時代、アルバイト情報誌の編集部で学生スタッフとして雑誌づくりに携わり、大学卒業後は編集プロダクションに勤務。転職情報誌の編集・ライターとして経験を積み28歳で独立。現在は就職サイトにて記事を作成するほか、飲食業界誌、企業広報誌、テレビ誌などあらゆる媒体で、さまざまな職業の人物インタビューを行っている。