2019.12.22 / interview

布や糸でストーリーを紡ぐイラストの世界<その2>

MICAOさんのインタビューを読んでいる人のなかには「イラストレーターになりたい」と思っている人も多いのでは。プロになるまでの道のり、活躍の秘訣など、気になりますよね。実は意外にも、もともとはイラストレーターをめざしていたのではないそうです。後半<その2>ではMICAOさん自身のストーリーをご紹介しましょう。

本来の自分に戻って辿り着いた「布でアートを紡ぐ仕事」

刺繍作家・イラストレーター MICAOさん × ライター久保田説子さん

くぼたん
ご自宅にアトリエがあるので、イラストレーターのお仕事が、暮らしと共にあるように見えます。絵を描くのは、小さいころから好きだったんですか。
MICAOさん
そうですね、絵を描くのも、ものをつくったりするのも得意でしたし、図画工作や家庭科の授業も好きでした。でも絵を習ったり美術系の学校に進んだりはしなかったんです。周囲から「就職にいいよ」と言われて大学は経営学部に進学し、会社では英語力をいかせればいいなと思っていました。

くぼたん
勤務先は外資系メーカーだったそうですね。今のお仕事や作風とはギャップを感じます。
MICAOさん
会社員だったのは大学卒業後の4年です。仕事はこなすので精一杯でした。先が見えない悩みを抱えているうちに、リストラの対象になってしまって。

くぼたん
えっ。そんな辛い時期があったんですね。
MICAOさん
私なりに努力していたので、大きなショックを受けました。

くぼたん
では退職を機に、イラストレーターになろうと思ったんですか。
MICAOさん
自信を喪失して、まずは何も考えられなかったですね。そんなとき小さいころを振り返ってみて、うまくいかない時でも続けられるのは何かなと考えたところ、絵やものづくりだったんです。

くぼたん
振り返る中で、本来の自分が見えてきたんですね。
MICAOさん
そうなんです。そのころに出会った本で、古くて役に立たない着物がアートにつながる世界を知ったのが、パッチワークにのめりこむきっかけになりました。以前から趣味ではあったんですが、あらためて針でちくちく縫ってみたら心が落ち着いてきて、時間を忘れてしまうぐらい。

くぼたん
布と糸とのお付き合いは、パッチワークから始まっていたんですね。

MICAOさん
自分と古布(こふ)を重ね合わせて傷ついた心を癒し、リハビリをしていた面もあったかもしれません。今もイラストレーションの素材として布と糸がしっくりくるのも、私自身がどん底のとき手にして、癒されたからなのかな。

くぼたん
創作のお仕事っていうと、わくわくした始まり方しか想像していませんでした。
MICAOさん
わくわくもあったんです。海外のパッチワークがとても美しくて感激したし、身近なアートとして評価されているという感動もあって。自分のなかにあるものをかたちにできて、将来にも期待できるのではと直感できました。

くぼたん
やりたいことがわかってきたから、スタートラインに立てたんですね。
MICAOさん
大きなタペストリーをつくってみたところ、パッチワークのコンテストでの反応はよくなかったんですが、ハンズ大賞に入選したんです!

くぼたん
ものづくりをめざす人には、憧れの賞ですよね。どんな作品だったんですか。
MICAOさん
ふたりの子どもを育てながらだったので、遊んでいる小さい子どもの姿を丸、三角などで抽象的に描き、身近な虫や葉っぱなどとともに家族の世界を表現しました。

くぼたん
そのパッチワークが出版社の方の目に留まり、家庭科教科書の表紙になったんでしたね。

MICAOさん
そうですね。失われつつある家庭のあり方を思い起こさせるようなシーンが、ぴったりだったのだそうです。このことが「素直に、思ったように表現したらいいんだな」という自信につながり、アップリケをつけたかばんなどを雑貨店に置いてもらうようになったんです。
くぼたん
ほかのハンドメイド作家さんとはひと味ちがう、ストーリー性のあるアップリケが人気になって、そこからホームページ開設、雑貨の個展開催へと広がっていったんですね。
MICAOさん
表現できることが純粋にうれしかったし、雑貨を見た方からイラストレーションの仕事も入ってきました。とはいえプロの世界はシビアで、手作り雑貨の絵では通用しません。これは第二の挫折でしたね。イラスト塾に入って勉強し直しました。

くぼたん
プロの道は、やっぱり厳しいんですね。

MICAOさん
先生から「絵の具で描くよりテキスタイルなら差別化できる」とアドバイスされ、ギャラリーハウスMAYAの装画コンペにミシン刺繍の赤ずきんのイラストを応募したら準グランプリに選ばれたんです。受賞をきっかけにAPJのカレンダー、ダイアリーの全国販売、うかたまの表紙絵とつながりました。

くぼたん
雑貨づくりが、作風を知ってもらう貴重な機会をつくってくれたんですね。

(↑ カップ、ダイアリー、カレンダー、一筆箋、ベビー服なども人気)

MICAOさん
はい。イラストレーションは、人の目に触れることがチャンスにつながりますね。
MICAOさん
雑貨からは、まず雑貨カタログや手芸メーカー、手芸系の出版社の仕事へつながり、すこーしずつイラストの仕事も入って来るようになりました。イラストレーターとしてプロと呼べる大きな仕事につながったのは、やはりイラスト塾卒業後すぐに受けた装画コンペでの準グランプリ受賞です。そう簡単には大きな仕事は来ないですね(汗) 
くぼたん
イラスト塾を卒業して受賞後は順調でしたか?
MICAOさん
受賞と言ってもほぼビギナーズラックだったと思うんです。なので、うかたまの仕事でもとても苦労しました。仕事で鍛えられましたね。
くぼたん
MICAOさんは、ほとんど独学でチャレンジを積み重ねてチャンスをつかんできましたよね。これからイラストレーターになりたい人も、独学でうまくいくでしょうか。
MICAOさん
うーん、確かに私は独学ですが、これからめざす人にはデザインの勉強をすすめますね。それに「自称イラストレーター」ではなく、プロとして息長く活躍したいのなら、まずはデザイン事務所に所属するのが確実かもしれません。

くぼたん
めざすのがイラストレーターでも、デザイナーを経験しておけばプラスになるんですか。
MICAOさん
フリーのイラストレーターになったら、一人で何もかもしないといけなくなります。納期を守るスケジュール調整力、コミュニケーションスキル、経営者感覚だって必要です。それを身につけておかないと、結局は長続きしないですから。

くぼたん
大切なのは、イラストのスキルやセンスだけじゃないんですね。

MICAOさん
それにイラストレーションはデザインなしでは成り立ちません。デザインを勉強すると、デザイナーから求められるタッチやモチーフ、イラストの持ち味をいかそうとするデザイナーの気持ちなどがわかるようになるのもメリットです。

くぼたん
イラストの仕事をするには作品をアピールすればいいのかなと思っていたのですが。
MICAOさん
アピールするだけじゃなく、丁寧に仕事をして、それが評判になって次の仕事につながるほうが長続きしますよ。私はブレイクしてすぐに消えてしまうより、息長く愛されるイラストレーターでありたいですね。

くぼたん
そのためにチャレンジし続けるんですね。

MICAOさん
はい。今、また新しい仕事にチャレンジしようとしています。詩人の世界をイメージしたイラストレーションやグッズなどをつくるお仕事です。若い人が素敵な詩にふれる機会が減っているので、イラストとのコラボを企画しています。

くぼたん
新しいブランドを立ち上げるってことですね。ブランディング、プロダクトデザインには、経営を大学で学んだことがいきるかも?
MICAOさん
そうですね。イラストやデザインだけではなく、もう少し全体を見る目が求められそうなので。

くぼたんん
これまで身につけてきた、まったく別の学びまでプラスにできるのも、MICAOさんの強みかもしれないですね。これからも楽しみにしています。

(↑ 2019ボローニャ国際絵本原画展(イラストレーター展)入選作品)

 

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【プロフィール】

MICAOさん

1967年生まれ。神戸大学経営学部卒業。外資系メーカー勤務を経て、独学で縫製、刺繍、染色、絵画などを学び、ハンズ大賞審査員特別賞を受賞。雑貨のプライベートブランド「MICAO」を立ち上げる。雑誌「うかたま」の表紙をはじめ、さまざまな広告、メーカーとのコラボ商品など、フリーのイラストレーターとして活動するほか、全国の百貨店、ギャラリーでの個展も精力的に開催。2019年にはイタリアボローニャ国際絵本原画展で入選。

この記事を書いた人

久保田 説子
公共団体、企業、大学などが発信したいことを、一緒に企画し、提案して形にしていく広報広告クリエイター。もっとも多いのは人物インタビューなどライターとしてのお仕事。大学ではコミュニケーションの授業を担当しています。 株式会社これから