2019.12.22 / interview

布や糸でストーリーを紡ぐイラストの世界<その1>

豊かなストーリーを感じさせるイラストレーションで知られるMICAOさん。雑誌や情報誌の表紙を担当し、全国の百貨店やギャラリーで個展を開催、2019年にはイタリアボローニャ国際絵本原画展で入選するなど、幅広く活躍中です。アップリケや刺繍などで繰り広げられる個性ある作品は、どんなふうに生まれてくるのでしょうか。

刺繍作家・イラストレーター MICAOさん × ライター久保田説子さん

(↑ 2019ボローニャ国際絵本原画展(イラストレーター展)入選作品)

くぼたん
「うさぎとカメ」、10月に作られたイソップ寓話集の表紙にもなっていますね。これ、ボローニャ国際絵本原画展で入選した作品なんですね。
MICAOさん
そうです。イソップ寓話集「うさぎとカメ」のワンシーンなんですよ。

くぼたん
構図が大胆で、でも草花などの刺繍は繊細でとても印象的でした。
静のうさぎと、動きのあるカメの対比からストーリーが浮かび上がってきそうですね。線を引いたり色を塗ったりするかわりに、アップリケや刺繍で表現しているんですね。
MICAOさん
はい、うさぎの目は赤いフェルトのアップリケで、草花やカメなどは刺繍です。

くぼたん
カレンダーなどでおなじみになっている人気キャラクターの赤ずきんも、アップリケや刺繍だから愛らしい。雑貨、雑誌の表紙など、作品はすべて布や糸を使っているんですか。
MICAOさん
そうですね、パソコンやペンも使うけど、私にとっては布や糸での表現がいちばんしっくりくるんです。絵本の場合はペンで紙に書いたストーリーを、布と紙の両方で仕上げています。

くぼたん
ものすごく手間と時間がかかっていそう。刺繍はミシンを使っているんですか。
MICAOさん
ミシン刺繍もしますけど、印刷されたらペンとあまり変わらないように見えるので、できるだけ手縫いにしています。

(↑ 愛知県教育振興会発行の「子とともに ゆう&ゆう」、国立がん研究センター発行の「日々歩」などの表紙絵を担当)

くぼたん
雑誌の表紙にもファンタスティックなストーリー性を感じます。連載している「うかたま」の表紙には「食」が表現されていますね。アップリケや刺繍のイラストレーションと食べものの写真がなじんでいたりして。
MICAOさん
乾物やトマトの写真をバランスよく絵に溶け込ませるのが、なかなか難しくて。そのぶん「できた!」っていう喜びも大きいんですけどね。

くぼたん
楽しいコラボですね。デザイナーさんと一緒に考えるんですか。

MICAOさん
「うかたま」の場合はテーマをもらって私が考えて、デザイナーさんにラフスケッチを提出します。そのままOKが出ることもあるし「ここを少し変えましょう」というリクエストに合わせてもう一度考えることもありますね。

 

くぼたん
相談しながら仕上げるんですね。MICAOさんの場合、雑貨にもストーリー性を感じるっていうファンが多そうです。

MICAOさん
ブックカバーをつくるんだったら、たとえば2匹のネコがおしゃべりしてるなんていうシーンを描いてました。その絵からふくらむイメージをエッセイ仕立てにして、カードに書いて添えてみたり。

くぼたん
わあ、楽しい。それ、ほしい! ブックカバーのイラストってふつうは、もっと単純なワンポイントですよね。
MICAOさん
私自身が楽しいって思える絵にしたいし、お店で買う人の会話を聞いていると、喜んでいるのが伝わってくるんです。それで「人気がある! よし、いける!」って、さらに張り切ってつくるわけです。

くぼたん
お店で雑貨を手に取るお客さんの声が、MICAOさんに届いていたんですね。
MICAOさん
店頭の声や届くメールなどからヒントをもらって次にいかしてきました。雑貨店の若い店長さんなどからも教えてもらって。

くぼたん
イラストレーターさんは「これが、私の世界」っていうのをあまり変えないのかなって思っていたのですが、ニーズに応えているんですね。作品づくりで大切にしていることは何ですか。
MICAOさん
布が素敵なアートになることをもっと知ってもらうために、よりデザイン性の高い作品にしたいなって思っています。

くぼたん
手づくりのアップリケや刺繍のイラストレーションって、素朴な温かみが魅力ですが、洗練されたデザインも大切っていうことですか。

MICAOさん
そうなんですよ。たくさんの作品が並ぶなかで「いいな」と思ってもらおうとすると、テキスタイルの味わいや、ハンドメイドのざっくりとした質感だけじゃ足りないんです。ボローニャ国際絵本原画展は世界から作品が集まるので、とくにデザインのクオリティが高い。

(↑ 2019ボローニャ国際絵本原画展(イラストレーター展)入選作品)

くぼたん
MICAOさんの作品からも、デザイン性を強く感じました。
MICAOさん
原画展の審査員の方とお話をしたときも、ストーリー性を感じさせる大胆な構図に魅力を感じてもらっていたとわかりました。そういう見せ方を意識することで、作品の味わいが深まるとも思うんです。学ぶことばかりですね。

くぼたん
すでにファンがいっぱいいるMICAOさんにも、まだ勉強が必要なんですか。
MICAOさん
まだまだ。ふりむいてもらってないな、デザイン性が足りないなと思うことは、よくありますよ。自分にとっての合格ラインを超える「素敵」を、叶え続けたいですからね。

くぼたん
自分自身のなかに「素敵」の合格ラインがあるんですね。
MICAOさん
ありますね。だからトライアンドエラーは、いつも欠かせません。たとえば赤ずきんのキャラクターが人気になっても、作品がそればっかりに偏るのはつまらない。それにそのときは大好きになってくれている人も、マンネリではいずれ気持ちが離れてしまうでしょうし。

くぼたん
これからはイラストレーションと絵本の両方に力を入れたいと思っているんですか。
MICAOさん
そうですね、イラストレーションと絵本、お互い高めあうのが理想です。

くぼたん
イラストレーションと絵本では、どんな違いがあるんでしょうか。
MICAOさん
イラストレーションは印刷物が発行された時点で楽しんでもらう旬のもの。どんどん描いて次々と見てもらうっていうのは、私自身も楽しいけれど、ちょっと消耗しちゃうんです。

くぼたん
そうか、絵本はカタチになって、息長く愛されるところが魅力なんですね。
MICAOさん
そう、じわじわとね。だから雑誌の表紙などのイラストレーション、個展、絵本の創作、バランスをとって全部の仕事をしたいんです。


(↑ 個展の様子)

くぼたん
それじゃ、いつもチャレンジしていることになりそうですね。

MICAOさん
あ、それは望むところかも。だって、どんなタッチやモチーフでも人気が出たころには私自身がたいてい飽きていて「次は何やろうかな」と思っていますから。「新しいことがしたいな」っていうムズムズは、常にありますね。

くぼたん
ムズムズが! じゃあ新しいことにチャレンジするときのインスピレーションは、どこからもらってくるんですか。
MICAOさん
本が多いですね。インターネットでもいろいろ検索しますけど「いいな」と思ったら現物の本を手に入れたくなります。

くぼたん
だからアトリエに本がいっぱいなんですね。でもチャレンジしつつ、シメキリを乗り越えなければならないでしょう。その辛さはないんですか。
MICAOさん
徹夜に近いときもあるけれど、やめたいって思ったことはないですね。布と糸の世界を楽しんでもらえるのがうれしくて、立ち止まれないんです。

 

 

布や糸でストーリーを紡ぐイラストの世界〈その2〉に続きます

この記事を書いた人

久保田 説子
公共団体、企業、大学などが発信したいことを、一緒に企画し、提案して形にしていく広報広告クリエイター。もっとも多いのは人物インタビューなどライターとしてのお仕事。大学ではコミュニケーションの授業を担当しています。 株式会社これから