2019.12.18 / interview

アタマとココロを刺激する、絵本サロンの秘密<その2>

前半<その1>のお話からは、絵本サロン「絵本と砂の部屋(仮)」での「遊び」と「学び」が訪れた人の価値観をひっくり返し、社会の入口に立つ学生であれば、絵本でトレーニングもできるということが伝わってきました。後半<その2>では「マナソビ」がさらに広がり、絵本サロンという枠までも軽々と飛び越えてしまいます!

AI時代に遊び、学び、飛び出し、

夢を叶える場所

絵本サロン「絵本と砂の部屋(仮)」オーナー 濵口 桂さん × ライター久保田説子さん

くぼたん
前半<その1>のお話で、絵本サロンでは遊びながら学ぶ「マナソビ」ができる、それは社会でも役立つというお話をお伺いしました。たとえば「ももたろう」を鬼の目線で捉えると、相手の立場で考える体験ができるなど。はまぐちさんが学生に教えるとき、教科書じゃなくて、絵本を使うのは、どうしてですか? おもしろいから?

はまぐちさん
そうそう、おもしろいから! 「マナソビ」のメリットは、おもしろさです。ブロックなら真剣に積み上げられるし、砂山にトンネルを夢中で掘る人は、つぶれても、もう1回やろうとするし、つぶれる理由を考えてみるでしょ。おもしろいからです。

くぼたん
絵本があると、学びも盛り上がりますか?

 

はまぐちさん
盛り上がるよ~! レジュメや教科書なんて、自分からは開かないでしょ。勉強は、やらされるものと思っているからです。絵本なら子どもの頃に遊んだ記憶があるし、絵があるからイメージがふくらんで、考える手助けになってくれます。だから絵本でワークショップをすると、自分から学ぼうという姿勢で取り組めて、学びが深まるんです。

くぼたん
絵本が掲載されたレジュメや教科書じゃなく、本物の絵本のほうがいいんですか。

はまぐちさん
断然、本物の絵本です。実際に試してみたけど、コピーでは盛り上がりません。とくにグループワークに効果があります。毎回ちがうメンバーでグループを組むので、最初は遠慮がちになるものです。絵本が目の前にあれば積極的に手にとって好きなところを開き、話が弾み、仲よくなれます。

くぼたん
なるほど。外国の絵本を使えば、外国語がマスターできますか?

はまぐちさん
それより、もっとおもしろい取り組みをしましょうよ。パラパラと絵を見て物語を組み立てるトレーニング、つまりストーリーテリングの力を育むのに、外国の絵本がすごく役立つんです。海外の宗教、文化、意識が反映されているから、思い込みをはずし、多様性にあふれるストーリーがつくれます。

くぼたん
「視座を変える」「アイデアを出す」「ストーリーを組み立てる」、どれも学校では、あまり経験できない学びですね。
はまぐちさん
受験でよくある、パターンで解く問題や暗記に強くても、これからの仕事では役に立たないと考えています。だから絵本での学びで身につけるのは、それとは真逆のものです。

くぼたん
それは、どうしてですか。

はまぐちさん
AI化が進むこれからの時代、人間はAIが得意な分野では勝負できません。暗記やパターンから結果を導き出す仕事はAIのほうが得意なんだから、任せておいたらいいんです。

くぼたん
AIって、人工知能のことですね。囲碁将棋などでは、名人に勝っていたりします。

はまぐちさん
近い将来、人間とAIが協働する時代がくるでしょう。人間とロボット、それぞれのよさ、らしさをいかして働く時代が、もう目の前です。

くぼたん
人間は人間らしい能力を伸ばし、人間らしく働くべき時代がきているってことですか。

はまぐちさん
はい。AIにできないのは空想です。これまでにないストーリーを仕事に取り入れるのは、人間ならでは。社会に出たら、未来を想像できるストーリー性豊かな、おもしろいプレゼンテーションが共感を呼び、ウケる提案が採用されるでしょうね。

くぼたん
想像する力、周囲にウケる力が仕事に役立つなんて、知らない人が多いと思います。

はまぐちさん
とくに接客力、営業力、企画力が求められる仕事には、とっても役立つでしょう。それにどんな仕事にも、相手を説得したり、提案したり、理解してもらったりすることは欠かせませんよ。

くぼたん
今のお話で、絵本で学べば社会の変化にも対応できることがわかりました。ところで絵本サロンの名前「絵本と砂の部屋(仮)に「(仮)」って付いているのが気になっています。オープンしたてですが、今後は変わっていくのですか。

はまぐちさん
今はまだ仮の姿…… 最終目的が達成されて初めて(仮)を取ります。それまでは、自分への戒めとして(仮)を付けています。
くぼたん
もともとこの絵本サロンは、クラウドファンディングで立ち上げたんでしたね。
はまぐちさん
はい。自由に入室し、好きなだけ絵本を読んでもらうための場所として立ち上げました。今のところ入室料金や個別相談料金は設定していないし、テーマごとに開催するワークショップは有料ですが、それだけで運営し続けていくのは難しい。
くぼたん
次の作戦を考えているんですね。

はまぐちさん
絵本の出版社や作家さんとのコラボレーションができればと考えてます。ポスターなどによる新作情報の発信、原画展やサイン会、座談会などのイベント開催などですね。

くぼたん
それって、絵本の聖地じゃないですか。わくわくさせられる目標です。

はまぐちさん
でもじつは、もっと先にも目標があるんです。ここでは絵本だけでなく、ロボットの世界も体験してほしいと思っています。突然ですが、分身ロボットOriHime(オリヒメ)って知っていますか?

くぼたん
オリヒメ?

はまぐちさん
病気や事故などで寝たきりの生活を送り、長期入院せざるをえない方の視覚や聴覚とつながることのできるロボットです。「目のまばたきができるだけ」など発信方法が限られていても、OriHimeを通じて体験でき、おもしろかったら手を振るなんてこともできます。それを何台か、ここに置きたい。

くぼたん
ロボットが、この絵本サロンにくるんですか。

はまぐちさん
そうです。たとえばここではOriHimeを通じてライブ感のある絵本の読み聞かせを体験してもらえます。ほかの来場者と、または隣あうOriHime同士が友だちになるチャンスにもなるでしょう。

くぼたん
OriHimeをこの絵本サロンに迎えれば、病院で寝たきりの子どもと、ここにきた子どもが、友だちになれるかもしれないってことですね。
はまぐちさん
そうです。病院からは出られなくても、楽しみが増えれば生きる意欲がもっと出るんじゃないでしょうか。不思議なんですがOriHimeと接していると、人間に見えてくるんです。OriHimeを移動させようとして頭を本棚にぶつけた瞬間に「ごめん!」て、声に出して謝りましたもん。

 

くぼたん
人間とロボットが交流できる場所になっていけば、今より、いろんな意味で広がりますね。
はまぐちさん
ゆくゆくは「OriHimeカフェ」なんてアイデアもあります。OriHimeは動けるので、OriHimeに乗り移って働いてもらえますからね。

くぼたん
働いて社会に参加することが、人間にとって、大きな意味をもつからですか。

はまぐちさん
はい。とても大きな自己肯定感があります。OriHimeユーザーは働くことで、生まれて初めて「ありがとう」と言ってもらい「生きていてよかった」と思えるといいます。だからここを、人間とロボットのいる、実験的な遊び場にしていきたいんです。

くぼたん
これからは「遊び、実験し、働く」という学びが、広がっていきそうですね。

はまぐちさん
はい、人間や人間が憑依したオリヒメ、ペッパー君のようなヒューマロイドなどが一緒に遊ぶ・学ぶ空間〝マナソビ〟がここに完成した時、それが(仮)の取れる瞬間なんです!!

 

◆絵本と砂の部屋(仮)◆

【住所】大阪市中央区久太郎町町3-1-22 OSKビル401号室

【アクセス】御堂筋線本町駅12番出口徒歩5分/堺筋線堺筋本町駅11番出口徒歩6分

ワークショップ情報はこちらでご確認ください ↓ 

絵本と砂の部屋(仮)ホームページ
絵本と砂の部屋(仮)FBページ

 
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【濵口 桂さんプロフィール】

Co-en代表。大学や企業などで『産業トレンド・業界動向・企業研究』をテーマに、非常勤講師として授業・講座などを行う。ファシリテーションやコーチング、キャリアカウンセラーのスキルを応用した、絵本やブロック、各種カードを使ったワークプログラムも実施。『日本昔話村シリーズ』と銘打ったオリジナルのワークツールの開発も行っている。 FBページインスタ(絵本の紹介

この記事を書いた人

久保田 説子
公共団体、企業、大学などが発信したいことを、一緒に企画し、提案して形にしていく広報広告クリエイター。もっとも多いのは人物インタビューなどライターとしてのお仕事。大学ではコミュニケーションの授業を担当しています。 株式会社これから